追いかける。

「大切な何かを見失う」。目が覚めた瞬間にそう感じた。
いくら思い出そうとしても思い出せない。夢を見たのに思い出せない。
もやもやした何か膜のようなものが頭の中に展開されていた。

とりあえず、トイレへ。
そして、歯磨き。
口の中がすっきりして頭が再起動する。
それから朝食。今日は食パンを焼くのみ。何か付けるのが面倒なのと、もともと薄味派なので付けずに素材の味を楽しめるから。
そして、買ってあった缶コーヒーを一口飲み、タバコを吸った。ちょっとぼーっとしてから着替えて、出かける。

まだ夢を思い出そうとしている。でも膜のような何かが引っかかって思い出せない。膜というよりはバリアみたいな感じだ。でも、出かけるので考えるのは一旦停止。

今日は仕事を見つける為にハローワークにやって来た。
初めて見た光景だった。
皆が心を閉ざしたまま、人では無いような雰囲気を醸し出していたように見えた。ロボットのようにも見えたがイライラが見え隠れしたので、やはり人と認識した。
仕事って、そんな感じで探すものなのか?と疑問が湧いたが、すぐにその雰囲気に飲まれてしまい、疑問は後回しになった。
あのー、すみません。仕事を探しにきたんですけど。。。
という顔をしながら辺りを見回すと、職員の方がスッと寄ってきて
どうされましたか?
と聞いてきてくれた。
初めて仕事を探しに来たことを伝えると
では、あちらにお並び下さい、
と行列の最後尾に案内してくれた。

10分くらい経っただろうか?
次の方。と、呼ばれたのでブースみたいに区切られているところに一礼したから座った。
5席のブースがあり、それぞれ相談員が対面で話している。
自分と対面している相談員は60歳くらいのおじさんだった。
おじさんが一通り、この施設の説明してから、何をしに来たか自分に聞いてきた。自分は前の仕事でリストラされたこと。今は何を仕事したら、自分にあってるか分からない。と話した。
おじさんはちょっと考えてから、とりあえずいくつか求人票を見てから考えようみたいに言ってくれた。そうしないと、後から後からくる人々に対応出来ないのだ。自分も背後から視線は凄く感じていた。だから、求人票を検索する別の場所に移動しようと、おじさんに一礼して、ブースを後にした。

求人票を検索するところは初めに来た時に見た、あの光景の場所だった。ロボットのような人々がカチカチとマウスをクリックする音が響く。